生活習慣の改善
上の図は皆さんには何となく覚えのあるものではないでしょうか?
ムシ歯の成り立ちの説明によく使われたものと同じです。
ムシ歯の場合は、環境因子が食物、生体因子が歯質になっただけです。まるで別々の3つの原因でムシ歯になったり歯周病になったりするようなイメージを受けますが、少し考えてみると、
口腔内常在菌は本来口の中の組織を守っているものですが、細菌数や細菌叢は食事の仕方や内容によって大きく変わっていきます。
生体因子のうち、歯並びや肥満、糖尿病、骨粗鬆症、さらに免疫などの抵抗力も含め、それらは日々の生活習慣によって左右されます。
そうすると、ムシ歯や歯周病の原因は、ほとんどすべて生活習慣に帰するのです。
歯周病にはこれといった「特効薬」がありません。
そのため、正しい歯磨きを続けることと、下記のように日常生活の改善を図っていくことが根治(根本治療)への道となります。食生活を改善する
よく噛む習慣
1口あたりの噛む回数を増やし(1口30〜50回)唾液の量を増やすことが重要です。
唾液に含まれるホルモンが骨の回復に役立ち、歯ぐきの血行も良くなります。50噛みの効用
歯根とそれを支える骨の間には歯根膜(幅:約200μm)というものがあり、その中の繊維成分がしっかりと歯を保持しています。
しかも歯根膜には細い動脈や静脈があり、歯根表面のセメント質に栄養補給も行っています。歯磨きによる歯肉のマッサージは、口腔粘膜には効果的ですが、歯ブラシの届かない歯根膜にはその効果は期待できません。
そこで、噛む回数を増やし、歯根膜に適度な刺激を加え、血液循環を良くするーマッサージと同じ効果ーことが目的です。
すなわち、組織を賦活させ抵抗力を増強させようというものです。(=フィジオセラピー)
付録 噛む力をつけよう
<特集>子供の食生活を見直そう —固いもの好きに育てるためにー
栄養だけではない食生活の大切さ
悪くなった歯を治すとき、一番苦労が多く結果が悪いのは、歯列の悪い場合である。
歯列の悪い歯の裏陰に汚れが残るので、そこにムシ歯や慢性辺緑性歯周炎(歯周病)が多発する。歯並びの悪さは口腔疾患の元凶ということができる。
歯列不正は矯正治療によって治療可能だが、治療期間も長い上に、審美性の悪さも我慢しなければならない。保険も効かないので、上の子も下の子もということになれば、とてもやりきれるものではなかろう。
このような歯列不正の場合のムシ歯や歯周病は、歯ブラシによる清掃だけではとても防げるものではない。
歯列不正こそ、育児によって予防しなければと考え、幼児期の食生活を見直してほしい。唾液の働き
噛む回数が増えれば、結果的に唾液の量も多くなります。
唾液には次のような働きがあり、大切なものです。唾液には
- 消化作用
- 潤滑作用
- 緩衝作用(口の中の酸性化を和らげる)
- 口腔内の洗浄作用
- 粘膜の修復作用
- 歯の保護作用
- 歯の再石灰化作用
- 免疫作用
- 発がん性物質の無毒化
などの作用があり、これらの働きにより口腔内および体を守っています。
唾液は1日に1.0ℓ〜1.5ℓ位分泌されますが、よく噛まない人、噛めない人の場合は1/5〜1/10の量しか分泌されないと言われています。
唾液に関するもっと詳しい情報はウェブ・カレッジに掲載されています
ドライマウス(口腔乾燥症)
唾液は口腔内にあって様々な働きで口腔および体を守っていますが、唾液の分泌量が少なくなると口腔乾燥症になります。
これがドライマウスです。ドライマウスの原因は多様です
- 加齢
- 全身の病気
- 薬の副作用
- 生活習慣
- 口呼吸
- ストレス
- その他・・・などが主要な原因とされています。
砂糖の影響
歯周病に大きな影響を及ぼすものに「砂糖」が挙げられます
砂糖は歯垢内の細菌に取り込まれて、歯垢が強力なノリ状になり、歯にへばりつきます。
付着した細菌層の下に膿漏の細菌が繁殖するようになるので、減量とは言わず、日常的に使うことは厳禁にしたいものです。
(最近、砂糖代替品として希少糖 D-プシコース が糖尿病やダイエットに効果的ということで話題になっていますが、なかなか手に入りませんし、高価です。)砂糖代替え品について
むし歯になりにくい甘味料
通常、砂糖(ショ糖)を中心にブドウ糖や果糖などの糖類が甘味料として用いられています。
しかし、少量の糖類でもむし歯の原因となるために、むし歯になりにくい甘味料が求められていました。表に示すような甘味料は、二つのメカニズムからむし歯の発生予防に関わっているとされています。
1. むし歯原因菌が酸を作る材料にならないこと。
2. プラークを厚くする菌体外多糖*の材料とならないこと。(グルコースの重合体で、ネバネバして水に溶けにくい性質)
甘味料名 甘味度 カロリー(kcal/g)
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糖アルコール
キシリトール 1.0 3.0
ソルビトール 0.6~0.7 3.0
マルチトール 0.8~0.9 2.0
二糖類・オリゴ糖
フラクトオリゴ糖 0.3~0.6 1.3
パラチノース 0.3~0.4 3.9
アミノ酸
アスパルテーム 100~200 ―
配 糖 類
ステビオシド 100~300 ―
参考 ショ糖 1.0 4.0
これらの性質を持つ甘味料は、むし歯になりにくいことから「低う蝕性甘味料」、あるいは「非う蝕性甘味料」と呼ばれています。
また、ステビオシドやアスパルテームなどは、砂糖の100倍以上の甘さを持つといわれます。
甘さに対する欲求はエスカレートすると言われています。
日常的には、甘さを抑えた食生活を心掛ける事が大切です。呼吸法を改善する
口呼吸/鼻呼吸
ほとんどの人が、「私は鼻で呼吸している」と思っているのではないでしょうか。
ところが、無意識のうちに口呼吸をしてしているという人がかなり多く、半数以上が口呼吸をし、小学生以下に至っては、8割が口呼吸をしている状況だということです。
そしてその口呼吸がさまざまな病気の原因や健全な成長の妨げになっています。人は本来、鼻で呼吸します。
新生児は鼻でしか呼吸しません。
母乳やミルクを飲んでいる間は、口が使えないこともあり、鼻呼吸なのです。
口呼吸が始まるのは生後しばらく経ってからです。腹式呼吸のすすめ
歯槽骨・歯根膜・歯の神経(歯髄)へは血液で栄養や酸素が供給されています。
歯の周りの血管は細いので、血液供給は少なくなりがちです。少しずつ血流を増やしていくのにもっとも手軽で歯ぐきに効果的なのが、空気を吐き尽くす腹式呼吸です。
肺の空気を出し切る気持ちで可能な限り吐き出します。
鞄を持ち上げるとき、靴の紐を結ぶとき、座ったときなど日に十回から数十回試みるといいです。丹田呼吸法(たんでんこきゅうほう)
「赤ちゃん」をよく見ると、息をするとき「おなか」が上下します。これが「腹式呼吸」と呼ばれるもので、本来の呼吸法です。赤ちゃんは「自然のリズム」に添って腹式呼吸をやっているのです。
健康回復に大きな効果がある「腹式呼吸法」は、単に深く呼吸するだけではなく、丹田(たんでん)を意識しながら行なう「丹田呼吸法」です。丹田は「おへそ」のすぐ下に位置し、丹田は生命エネルギーをつかさどる場所と言われています。
また、丹田呼吸法は横隔膜の上下運動を最大限行わせるものですが、この場所に副交感神経が走っていて、この神経が刺激され、その結果、興奮が押さえられたり、体全体(特に内臓と内分泌系全般)のバランスを調和させることにもなります。
喫煙
タバコには三大有害物質(ニコチン、タール、一酸化炭素)をはじめとして、数千種類の化学物質、数百種類の有害物質、五十種類以上の発がん物質が含まれていることが明らかになっています。
喫煙者は、がん、心臓病、脳卒中、肺気腫、喘息、歯周病などの病気になりやすく、かつ進行が早いことが知られています。
喫煙は歯周組織(骨や歯肉)を破壊し、喫煙者は非喫煙者に比べ数倍の歯周病にかかりやすくなると言われています。喫煙者では、ニコチンの強力な血管収縮作用や一酸化炭素の粗粒子の作用により、歯肉が炎症を起こしても出血が抑えられ、表面が硬くゴツゴツした状態になってしまいます。
その結果、本来の初期症状が隠され、気づかないうちに症状が悪化してしまいます。
また血管収縮による血流低下や、一酸化炭素とヘモグロビンの結合による体内の酸素不足により、必要な栄養分(ビタミンC)や酸素が歯肉まで充分に補給されず、口腔内の諸組織が栄養失調状態になるため、喫煙者は歯周病にかかりやすく、かつ治りも悪くなってしまうのです。さらに、喫煙者は、唾液分泌量が低下することも知られています。
禁煙にチャレンジすることは、歯周病のみならず様々な全身疾患のためにも非常に良いことです。
歯と歯肉の健康からはじまり「体」の健康回復、維持のためにも、一日も早い禁煙をおすすめします。
片山先生は最期まで名うての愛煙家でした。歯の食いしばり・歯ぎしり
著しい咬耗
深いWSD
歯牙の破折
健康な咬み合わせの人の、1日の上下の歯の接触総時間は十数分だと言われていますが、食いしばりや歯ぎしりのある人は、その数倍から数十倍接触します。
しかも、通常の食事の際にかかる力より遥かに大きいため、歯根やその周囲の組織にかかる力は計り知れません。
上の写真のような悪影響を及ぼすほど大きな負担がかかることもあります。また近年、これらの歯ぎしりの他に上下歯列接触癖という考えが提唱されています。
上下歯列接触癖( Tooth Contacting Habit : TCH )とは、
上下の歯または歯列を持続的に接触させる習癖行動と定義されています。
通常、健常者の機能的負荷は、平均17.5分と言われていますが、
咀嚼筋痛のある患者では、接触時間が約4倍も多かったという報告もあります。これらの習癖は歯槽膿漏をさらに悪化させるものですので、改善するように努めるといいです(自己暗示療法)。
自己暗示療法
歯の食いしばりや歯ぎしりは、無意識にうちにおこなっています。
自分がやっていることを意識し、注意を喚起することによって防止することが可能な場合があります。まず日中、仕事をしているとき、運転しているとき、料理をしているとき、掃除をしているとき、何かに夢中になっているときなど、上下の歯が接触していないか気をつけてみて下さい。
そして接触する時が多い場合は、意識して接触しないよう努力します。
数週間訓練すると、昼間だけでなく夜間の食いしばりも減少するようです。(歯ぎしりの場合は、もっと様々な要因があるので、歯科医院で相談してみて下さい。)
健康面を改善する
血糖値をコントロールしなければいけないのはもちろんのこと、動脈硬化やコレステロール・中性脂肪も闘病を妨げます。
これらの症状に対する薬剤は多く存在しますが、あくまでも対症療法です。
原因を放置したまま、長期間薬剤を多用することは健康的とは言えません。
もっと生活の中身を見つめ直して下さい。生活のリズム
生活のリズムの狂いやストレスは、歯ぐきに大きな影響を与えます。
歯槽膿漏の人はもともと歯ぐきが弱いものなので、ストレス・睡眠不足・疲れ・ちょっとした無理でも、てきめんに歯ぐきが悪化してしまうので注意が必要です。
現代社会はストレスの時代と言われていますが、全くストレスのない世界は存在しないことも事実です。
ストレスこそ人を成長させ強くしている因子でもあります。容認できるストレスの大きさは各人様々です。
客観的に自分の生活を見つめる余裕と習慣を身に付けたいものです。(歯質がまだ未成熟な段階では、歯にも大きな影響を及ぼすことがあります)
体操
片山歯研セミナーでは毎回、片山先生が生涯実践していた基礎体操「真向法」を指導されました。
片山先生は、体がしなやかに曲がり、まわりにいる受講生はその柔らかさに驚くばかり。
先生よりずっと若い受講者たちは、日常の不摂生を実感してしまいます。
心身の健康とプライス
食生活と身体の退化
ウェストン A. プライス博士が伝統的な自給食を摂っている人びとに見たのは、完璧な歯列、ほとんど虫歯がなく、結核に対する強い免疫力、そして総合的に優れた健康体でした。
その驚異的な健康がいかにして獲得され、いかにして崩壊していくのかを明らかにしていく。
Life in all its Fullness is Mother Nature Obeyed.
母なる自然に添う時、生命は完全な花を咲かせる
ウェストン A. プライス